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紅茶の利便性への進化:アイスティーとティーバッグ

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紅茶の利便性への進化:アイスティーとティーバッグ

紅茶の利便性への進化:アイスティーとティーバッグ

2025/09/08

紅茶の利便性への進化

アイスティーとティーバッグ

いつものマグカップに、熱いお湯とティーバッグをポンと入れる。たったそれだけの動作で、私たちの日常に香り高い一杯が生まれます。あるいは、グラスに氷をたっぷり入れて暑い日に清涼感あふれるアイスティーを飲む。今日何気ない日常に溶け込んでいるこれらの光景は、実は紅茶がたどってきた驚くべき進化の歴史の一端です。

遠い異国から貴重な嗜好品として伝えられた紅茶は、やがて人々の暮らしに寄り添い、その楽しみ方を大きく変えてきました。その最大の原動力となったのが、「利便性」です。手間のかかる作業を簡略化し、いつでも、どこでも、誰でも気軽に美味しい紅茶を楽しめるようになったこと。この革命が、紅茶を特別な飲み物から、私たちにとって欠かせない存在へと押し上げたのです。

このコラムでは、紅茶の利便性の進化にフォーカスして、アイスティーとティーバッグの秘密に迫ります。まずは、夏の風物詩であるアイスティーの誕生秘話と、家庭で簡単にできる美味しい淹れ方をご紹介。次に、紅茶の世界に革命をもたらしたティーバッグの誕生とその正しい淹れ方を探っていきます。

目次

    涼を呼ぶ一杯:アイスティーの意外なルーツ

    01

    アイスティー誕生に秘密に迫る!

    アイスティーが生まれたきっかけ

    1904年セントルイス万博での出来事

    夏の暑い日に、キンと冷えたグラスに注がれたアイスティーを飲むのは、まさに至福のひとときです。しかし、この爽やかな飲み物が、ある出来事で偶然生まれたものだというのをご存知でしょうか。アイスティーが広く知られるきっかけとなったのは、1904年、アメリカ・セントルイスで開催された万国博覧会での出来事でした。

    当時、紅茶は熱いお湯で抽出したホットティーが一般的でした。東洋の歴史や文化が重んじられていた当時のイギリスでは、茶は中国・日本から伝来したもので冷やして飲むのは邪道、熱い茶を飲むのが正当とされていました。そんな中、万博に出店していたイギリスの紅茶商のリチャード・ブレチンデンは、猛暑で熱い紅茶がまったく売れないという事態に直面します。このままでは在庫を抱えてしまうと焦った彼は、ある大胆なアイデアを思いつきます。それは、淹れたての紅茶に大量の氷を入れ、冷たい飲み物として提供することでした。

    この「冷たい紅茶」は、万博を訪れた人々に大好評を博し、瞬く間に話題となりました。これがきっかけとなり、アイスティーはアメリカの夏の定番飲料として定着し、やがて世界中に広まっていったのです。熱い状態で飲むものだった紅茶が、新しい飲み物に生まれ変わった、まさに革命的な出来事でした。

    こうして、偶然とひらめきから生まれたアイスティーは、アメリカの食文化に深く根付き、夏の風物詩として私たちの生活に欠かせない存在となったのです。

    またアメリカでは他にもティーバッグやレモンティーなど、既存の「紅茶観」を打ち破る画期的な飲み方が発案されました。最初は邪道だったかもしれませんが、その土地の気候や文化に合ったものは大衆が受け入れやがて定番化していくということなのかもしれません。

    美味しいアイスティーの淹れ方

    02

    すっきり美味しいアイスティーで暑い夏を乗り切る!

    美味しいアイスティーを淹れるためのポイントを解説

    美味しいアイスティーを淹れるには、いくつかのポイントがあります。

    まずどの淹れ方でも共通して気をつけたいのが、「クリームダウン」という現象です。

    クリームダウンとは、紅茶の成分であるタンニンとカフェインが温度が下がった際に結合し結晶になることで紅茶が牛乳を入れたように白く濁る現象です。白濁した紅茶を飲んでも健康に害はありませんが、アイスティーの清涼感が失われてしまうので避けたい現象です。

    クリームダウンを避けるポイントとして、タンニンが比較的少ない茶葉を使うことが挙げられます。

    ・タンニンが多い茶葉  

    ダージリン、アッサム、ウバ、ヌワラエリアなど 渋みが強いものはクリームダウンが起こりやすい。

    ・タンニンが少ない茶葉 

    キャンディ、ケニア、インドネシアなど 

    比較的渋みが少ない(タンニンが少ない)のでアイスティー向き。

     

    それでは、リーフティー、ティーバッグ、水出しの三つの方法を具体的に紹介します。

    クリアで香り高い一杯を楽しみましょう。

    リーフティー編

    覚えておきたい、アイスティーの淹れ方 ①オンザロック方式 ②ダブルクーリング方式 の二つをご紹介します。

    ①オンザロック方式

    一杯ずつ淹れるのに適した方法です。ブラックティーよりもお湯の量を少なくし濃いめに淹れ、氷で一気に急冷させるのがポイントです。

    ①お湯を沸かし、少量ポットに注ぎポットを温めたらお湯を捨て茶葉を入れる。

    ・茶葉の量は一杯あたり2.5〜3g

    ②沸騰したての熱湯を注ぎ、蓋をして2分〜2分半ほどしっかりと蒸らします。

    ・ブラックティーよりも濃く抽出するため、通常150〜160ml注ぐところを約半分の量のお湯を注ぎます。

    ・ブラックティーを淹れる時よりも気持ち短めに蒸らすことで、タンニンの出過ぎを防ぎクリームダウンしにくくします。

    ③蒸らし終えたら、ティーストレーナーで別の容器に移します。甘みをつける場合はこの段階でシロップやグラニュー糖を加えます。(加えなくても良いが、砂糖を少量加えるとクリームダウンしにくくなります。)

    ④グラスにたっぷり氷を入れ、③の紅茶液を一気に注ぎます。マドラーなどで軽くかき混ぜたら完成!

    ・一杯ずつ淹れることができるので、私も一番多く取る方法です。ただ、一番クリームダウンしやすい方法なのでコツを掴むのに少し練習が必要かもしれません。

     

    ②ダブルクーリング方式

    最後の工程で氷を取り除き紅茶液のみでフィニッシュ。複数杯分を淹れることができる上に紅茶液は常温で半日ほど保存ができるので飲みたい時に氷の入ったグラスに注げばいつでも爽やかなアイスティーが楽しめます。

    ①お湯を沸かし、少量ポットに注ぎポットを温めたらお湯を捨て茶葉を入れる。

    ・茶葉の量は一杯あたり2.5〜3g

    ・常温保存できるので、2〜3杯分と多めに作るとたっぷり楽しめます。

    ②沸騰したての熱湯を注ぎ、蓋をして2分〜2分半ほどしっかりと蒸らします。

    ・ブラックティーよりも濃く抽出するため、通常150〜160ml注ぐところを約半分の量のお湯を注ぎます。

    ・ブラックティーを淹れる時よりも気持ち短めに蒸らすことで、タンニンの出過ぎを防ぎクリームダウンしにくくします。

    ③大きめの口が広いボトルに氷をたっぷり入れます。

    ④蒸らし終えたら、ティーストレーナーで③に移し急冷させます。すぐに氷を取り除き、紅茶液のみを保存用のボトルへ。

    ⑤④で作った紅茶液は半日ほど常温保存できます。飲む直前に、グラスに氷を入れて注げばいつでも美味しいアイスティーが楽しめます。

    ・紅茶液は冷蔵庫に入れるとクリームダウンを起こす可能性があります。常温で保存し、その日のうちに飲み切りましょう。

    ・洗い物が増えちゃうけど、暑い日にたっぷり飲みたい人におすすめの方法です。

     

    おまけ 二度取り法

    蒸らし時間を長く取る方法でカフェで提供する上であまり向いていないので、私自身はあまりしないのですが自分用や時間が気にならない場合はおすすめの方法です。使用する茶葉の量を減らすことでタンニンの量を抑え、茶葉を減らす分ゆっくり時間をかけて蒸らすことでコクのある一杯に。ダブルクーリング法と同じく常温で半日ほど保存できます。

     

    ①お湯を沸かし、少量ポットに注ぎポットを温めたらお湯を捨て茶葉を入れる。

    ・茶葉の量は少なめに、一杯あたり2g。

    ・常温保存できるので、2〜3杯分と多めに作るとたっぷり楽しめます。

    ②沸騰したての熱湯を注ぎ、蓋をして15〜20分間ゆっくりと蒸らします。

    ・一杯分のお湯の量は140mlほど。

    ・必ずタイマーで時間を計らないと、存在を忘れます。

    ③大きめボトルに氷をたっぷり入れます。

    ④蒸らし終えたら、ティーストレーナーで大きめの容器に濾して移します。その後③のボトルに一気に注ぎ急冷させます。軽くかき混ぜたら氷を取り除き、紅茶液のみを保存用のボトルへ。

    ⑤④で作った紅茶液は半日ほど常温保存できます。飲む直前に、グラスに氷を入れて注げばいつでも美味しいアイスティーが楽しめます。

    ・紅茶液は冷蔵庫に入れるとクリームダウンを起こす可能性があります。常温で保存し、その日のうちに飲み切りましょう。

    ・使用する茶葉が少ないのでクリームダウンしづらく、安定して淹れることができます。暑い日にたっぷり飲みたい人におすすめの方法です。

     

    ティーバッグ編

    手軽に淹れたいときは、ティーバッグが便利です。なんといっても茶葉の片付けが圧倒的に簡単!暑い日にストレスなくクールダウンできます。

    水差し方式

    ①保存用ボトル(耐熱、1Lくらい)にティーバッグを3〜4包入れ、熱湯をボトルの3分の1ほど注ぎます。

    ②蓋をして3〜4分蒸らし、蒸らし終えたらティーバッグを取り出します。

    ③②のボトルに水をボトルが一杯になるくらい注ぎます。(ここで1L になる)常温になるまで冷ましたら、冷蔵庫で保管もOK!

    ・一度に1L淹れることができるので、ゴクゴク飲みたい方向けです。

    ・冷蔵庫で保存できるものの、できるだけその日のうちに飲み切りましょう。

     

    水出し編

    時間をかけてゆっくりと抽出。お湯を沸かす手間も、洗い物も少なく済みます。

    ・熱湯を使わないので、必ず殺菌処理加工されている水出し用のティーバッグ・茶葉を使用してください。

    ①水と茶葉を容器に入れる: 密閉できる容器に、水と茶葉を入れます。量はパッケージの記載を参考に。

    ②冷蔵庫で抽出: 蓋をして、冷蔵庫で半日ほど寝かせます。その後ティーバッグを取り除くか、茶葉を漉せば完成!

     

    お好みの淹れ方で、涼しいティータイムをお楽しみください。


    ティーバッグの歴史

    03

    リーフティーより手軽なティーバッグの誕生

    手軽に紅茶が楽しめるティーバッグの誕生の秘密

    紅茶がより身近に

    茶葉を使って紅茶を淹れると、使う道具が多さや茶葉の片付けなどかなりの手間がかかります。特に忙しい朝の時間にリーフティーを淹れるのは、なかなかのハードルの高さです(出来れば優雅にリーフティーで朝を迎えたいですが!)。そんな時に便利なのがティーバッグ。道具も少なく、短い時間で紅茶を淹れることができます。また一人でリーフティーを一缶消費するのは結構大変。味が好みでなかったら尚更です。その点ティーバッグは一杯ずつなので、いろんな味が試せるのも大きな利点です。

    手軽に紅茶を楽しめるティーバッグは、今や私たちの生活に欠かせない存在。しかし、その誕生は偶然の産物だったことをご存知でしょうか?

     

    ティーバッグの誕生

    ニューヨークの茶の卸商をしていたトーマス・サリバンは、茶商に紅茶のサンプルを贈る際、小さな絹の袋に入れて郵送していました。本来、この小さな袋から茶葉を出して熱湯を注ぎ茶の鑑定をしていましが、いちいち何種類もの茶を袋から出して鑑定するのが面倒になった茶商が、茶葉を袋から出さずにそのままお湯に浸して紅茶を淹れました。この新しい淹れ方が大変便利だと気づき、商品化が進み、1908年トーマス・サリバンによってガーゼに包まれた実用的なティーバッグ売り出されました。これが、ティーバッグの誕生といわれています。(1896年にイギリスのA・V・スミスが考案した茶葉を布に包み糸で縛ったティーボールが原型、とする説もあります)

    最初はティーボールと呼ばれる、茶葉をガーゼで包んだものでしたが1920年ごろになると本格的に機械化されたティーバッグが生産されていきます。1930年にアメリカでろ紙が開発され、材質は布から紙製が主流に、茶葉の大きさはより早く抽出できるよう細かいものへと変化しました。不織布やナイロンなどの新素材も採用されていき、形状も時代とともに進化しています。初期の袋型から、抽出効率を高めるため茶葉が中で広がりやすいピラミッド型が登場しました。このピラミッド型は、リーフティーに近い味わいが楽しめると、多くの紅茶愛好家から支持されています。

    日々のティータイムを支えるティーバッグには、おいしさを追求する人々の試行錯誤の歴史が詰まっています。

    ティーバッグで淹れる美味しい紅茶

    04

    ティーバッグは手軽でありながら、少しの工夫で本格的な味わいを楽しめます。

    この章ではティーバッグを使って淹れるブラックティーと、手軽で美味しいミルクティーの淹れ方をご紹介します。

    • ティーバッグで淹れる、ブラックティー

    ①お湯を沸かします。 ティーカップにお湯を注いでしばらく経ったらお湯を捨て、温めておきます。

    ②沸騰したてのお湯をティーカップに静かに注ぎ、後からティーバッグをカップの淵からゆっくりと沈めます。

    ・ティーバッグの淹れ方の一番のポイント「お湯が先、ティーバッグは後」

    ティーバッグを先にカップに入れてお湯を注ぐと、急激に温度変化が起こり均一に茶葉が開きません。茶葉の繊維を壊さないようにお湯を先に入れて、後からゆっくりティーバッグを沈めれば茶葉が均一に開きリーフティーと遜色ない一杯を作り出すことができます。

    ③フタやソーサーでカップを覆って蒸らします。蒸らし時間はパッケージなどを参考に。

    ④ 取り出す: 好みの濃さになったら、ティーバッグを静かに引き上げ取り出します。

    ・絞ると余計な雑味が出るため、絞らないのがポイントです。

    ・ティーバッグを2〜3個使って、ポットで淹れるとたっぷり楽しめます。

     

    • ティーバッグで淹れる、ミルクティー

    リーフティーで淹れると、茶殻の片付けなどに手間のかかるミルクティーもティーバッグを使えば手軽に濃厚なミルクティーを楽しむことができます。

    ①ティーバッグは1杯につき2包使います。水は70mlほど ×人数分、牛乳も同量か水より若干多めを用意。(一杯あたり140mlになります)

    ②手鍋に水を沸かします。沸騰したら火を止め、ティーバッグを沈め蓋をし 3分〜3分半蒸らします。

    ・牛乳を入れる前にしっかりお湯で紅茶を抽出しておくのがポイント。茶葉を牛乳に直接入れると、牛乳の成分のカゼインが茶葉をコーティングしてしまい、うまく抽出できません。

    ②蒸らし終わったらティーバッグを引き出し、牛乳を加え沸騰直前まで温めれば完成!

    ・牛乳は普通の牛乳でも美味しいですが、低温殺菌牛乳を使うとより紅茶の風味が生きた味わいに。

    進化する一杯:現代に息づく紅茶の魅力

    05

    今回は、紅茶がたどってきた進化の歴史と、その奥深い魅力について探ってきました。最終章では、ティーバッグやアイスティーがもたらした変化と、現代における紅茶の役割を振り返り、この旅を締めくくりたいと思います。

    紅茶の「民主化」

    かつて貴族の飲み物だった紅茶は、ティーバッグの誕生によって、誰もが気軽に楽しめる身近な存在へと変わりました。手間のかかる抽出作業から解放されたことで、紅茶は特別な時間だけでなく、忙しい日々の合間にも寄り添ってくれる「日常の飲み物」となったのです。さらに、アイスティーの普及は、紅茶を暑い季節でも楽しめるようにし、飲み方の多様性を広げました。これらは、まさに紅茶の「民主化」と言えるでしょう。

    利便性と奥深さの共存

    現代の喫茶文化では、手軽に淹れられるティーバッグから、茶葉本来の風味をじっくりと味わうリーフティー、そしてカフェで提供される専門的な一杯まで、さまざまなスタイルが共存しています。私たちは、その日の気分や状況に合わせて、紅茶との関わり方を選べるようになりました。

    このコラムを通して、利便性を追求しながらも、その一杯に込められた歴史や製法、そして淹れ方の工夫が、紅茶の奥深い魅力をさらに引き立てることを感じていただけたのではないでしょうか。一杯の紅茶は、時代とともに進化しながらも、私たちに安らぎと豊かな時間を与え続けてくれる存在です。

    最後までお読みいただきありがとうございました。

    参考文献 一覧

    ・日本紅茶協会「紅茶の大辞典」成美堂出版 2013 271p.

    ・磯淵猛 「紅茶辞典」 株式会社新星出版社 2008  222p.

    ・磯淵猛 「紅茶の教科書」 株式会社新星出版社 2023  222p.

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